UptoU

アラサーOLの、もがく日記。

隅の冬

生活の中に、じわじわと冬が染み込んできています。

気が付けば11月。下書きばかり書いては消し、なかなか更新しないまま月が変わってしまいました。何も変わっていないように見えて何もかもが動き出していて、それなのにあらゆる物事の実体が掴めず、綿埃さながら地に足付かない気分で過ごしています。少しでも気を抜くと、マイナス思考の汚泥に足をとられて溺死しそうです。
激動の渦の中よりも、静寂の中の方が物事は影を潜め輪郭がぼやけてしまいます。満腹中枢を刺激しようとする惰性と、空腹の警鐘を鳴らす精彩に富んだ行き場のない向上心とが、毎日毎日せめぎ合っては消え、一日が終わります。つむじ風のような追い風に舞台が大きく様変わりした初夏が過ぎ、とにかく動かねばと目の前に現れる諸々に手を伸ばした晩夏を越え、自分がどれ程錆びつき視力が衰えてしまったのか痛感して秋を終えようとしています。棚から降り注いできた牡丹餅を詰め込んだ簡素な袋が、今にも重さに耐えかね底が破れてしまいそうです。
あまりにも目まぐるしく、少し目がまわってしまったのかもしれない。そう思って立ち止まろうとすると、立ち止まってはいけないと誰かがどこかで囁きます。それは恐嚇と似て非なる、可能性を示唆する福音のような囁きで、彷徨い歩くしかないのに足を動かさなければいられないのです。もう少し先に行けば、そびえ立つ扉が、垂れ下がる糸が、壁を砕く鶴嘴が、どこかにあるのかも知れないと希望を抱かせるのです。
 
愛すべきものが、愛しているものが、身の回りに溢れていることは随分前から気付いています。田舎の山肌を吹き抜けて肌に刺さる冬の冷気も、遠くなった空に薄く伸びる白雲も、大きめの窓から透き通る月の光も、蜘蛛の巣に捕まる色付いた枯葉も、フロントガラスに光る朝の結露も。お気に入りの青いローゲージニット、羊皮のロングブーツ、赤いマフラー。丸型の炬燵、重たい毛布、厚い靴下。白銀のアルミケースの中で開眼を待つカメラ、弾倉で眠るように息を潜めるレンズ、首を長くして待つ三脚。台詞を思い出せない祖母の声、祖父が育てた黄色い菊、案ずる父の声、母の着る美しい着物、兄の色白で細長い指。
年齢のせいなのか、状況のせいなのか、迫り来る乾いた冬のせいなのか。要因が解明できないまま、切なくて堪らなく息が苦しくなります。こぼれ、すり抜け、溶けるように消えていく全ての原型をどうにか留めたい衝動が止められず、後戻り出来ない道を前進することすら出来ず、途方に暮れてしまうのです。断片的に鮮明に思い出される諸々が、留まっていたいのだと子供染みた感情を湧き起こさせます。もう既に、とうの昔に留まる場所など消えているのに。
 
発作的に噴出した感傷です。今この文章が何の意味も成さないように、とりとめもない思考のほつれです。日々を生きることの幸せとか今ここに在ることへの感謝とかそういう使い古された美しい言葉たちが心の中で共鳴しあう日もあれば、神も仏も所詮は無から造り出された妄想の化身でしか無く綺麗事など端から現実の暗色で塗り潰してしまいたいと思う日もあります。それが今日でした。
 
四隅に冬が染みこんできています。じわりじわりと寒さを滑りこませてきます。せめて内側だけは、人肌程度の熱を取り戻したい。消そうか迷いましたが、秋の日記が著しく少ないので更新します。次回はもっと温かい記事を。おやすみなさい。