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アラサーOLの、もがく日記。

猫鳴り

 

猫鳴り (双葉文庫)

猫鳴り (双葉文庫)

 

 少し前に読んだ本ですが。

すごい。この一言に尽きます。
ありふれた言葉はこうも姿を変えるのかと、衝撃を受けました。「筆力」という単語がありましたが、この鈍器のような破壊性を持つ形のない重たい念のようなものがその力なんだとしたら、この著者の筆力は凄まじいものがあると思います。引き込まれるという言葉では足りない。底冷えするような物恐ろしさから今際の際の美しい灯までもがこれでもかという程静かに優しく美しい日本語によって描写されています。
 
中学生の頃、初めて太宰治の『人間失格』を読んだ時に不思議なほど強烈な背徳観を感じたのを思い出しました。幼少期、本屋でパートをしていた母が随分と絵本の読み聞かせをしてくれたおかげで本は生活に欠かせないものとなり、多少道を踏み外した多感な時期にも常に本が傍らにありました。けれども当時読んできたどの本とも違うあまりに異質な『人間失格』を読み終え、違法な有毒活字を目から飲み込んだような、体調不良にも似た脱力状態に陥ったのを覚えています。作中にのめり込む性格も大いに影響しているとは思いますが、何よりもあれは活字に宿る著者の力だと思います。
 
あらゆる相違点はあるのですが『猫鳴り』を読んで受けた「衝撃」は同様のものだったように思います。(あくまで「衝撃」の部分においてです)
本を閉じたくなる、けれど目は活字を追ってしまう。ハードボイルド小説を読む時とはまた違う、スピード感はなく自分の足でフラフラと薄暗い場所に進んで行ってしまうような感覚。
第一章は「なんだこの本は」と目を宙に泳がせ一呼吸置く、という作業を数回行わずにはいられませんでした。第二章は体を芯から冷やすような物恐ろしさと、手を握りたくような遣る瀬無さがせめぎ合う戸惑いに満ちた時間を過ごさずにはいられず、第三章は様々なレビューにもあると思いますが涙が出ます。第三章は感動します。けれどそれは、その前にある強烈な感情の揺動によってもたらされるもの、鎮静作用すらあるような最終章でした。
 
あ、それと太宰治作品と共通点がもう一つ。「すごい良かった、別の作品も読んでみよう」とすぐには思えない点です。わたしの場合、「とりあえず…ちょっといいや…」となってしまいました。これだけ心動くと異常にハマり、その作家の本は何を読んで何を読んでないんだか書名が定かでないほど無作為に読み漁ったり有名どころは読んでみたりするのですが、今回はそうはなりませんでした。いつ同著者の本を開くことになるのかは分かりませんが、諸々に余裕がある時が良いなぁと思います。
書いていて、徹底的主観オンリーになってきましたが晩夏の気まぐれ読書感想文だと思っていただければ幸いです。そしてわたしはこの一冊で沼田まほかるさんのファンになったということだけは書いておきます。一冊しか読んでないけど。
 
この夏はバタバタしながらも移動時間なんかも利用して何冊か本を読みました。雑誌なんかも新しいの読んでみたりして。わたしの読書感想文もアレだと思うのでここらで終了しますが読んだ本(雑誌除く)だけ貼っておきます。
白蓮れんれん (集英社文庫)

白蓮れんれん (集英社文庫)

 

 読んだときは白蓮れんれんについてのブログ記事を書くとばかり思っていたのに。猫鳴りに替わってしまいました。

その街の今は (新潮文庫)

その街の今は (新潮文庫)

 
弱いつながり 検索ワードを探す旅

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今日は涼しくて涼しくてとにかく上機嫌なわたしです。涼しい水曜日って素敵ですね。