猫鳴り
少し前に読んだ本ですが。
すごい。この一言に尽きます。
ありふれた言葉はこうも姿を変えるのかと、衝撃を受けました。「筆力」という単語がありましたが、この鈍器のような破壊性を持つ形のない重たい念のようなものがその力なんだとしたら、この著者の筆力は凄まじいものがあると思います。引き込まれるという言葉では足りない。底冷えするような物恐ろしさから今際の際の美しい灯までもがこれでもかという程静かに優しく美しい日本語によって描写されています。
あらゆる相違点はあるのですが『猫鳴り』を読んで受けた「衝撃」は同様のものだったように思います。(あくまで「衝撃」の部分においてです)
本を閉じたくなる、けれど目は活字を追ってしまう。ハードボイルド小説を読む時とはまた違う、スピード感はなく自分の足でフラフラと薄暗い場所に進んで行ってしまうような感覚。
第一章は「なんだこの本は」と目を宙に泳がせ一呼吸置く、という作業を数回行わずにはいられませんでした。第二章は体を芯から冷やすような物恐ろしさと、手を握りたくような遣る瀬無さがせめぎ合う戸惑いに満ちた時間を過ごさずにはいられず、第三章は様々なレビューにもあると思いますが涙が出ます。第三章は感動します。けれどそれは、その前にある強烈な感情の揺動によってもたらされるもの、鎮静作用すらあるような最終章でした。
あ、それと太宰治作品と共通点がもう一つ。「すごい良かった、別の作品も読んでみよう」とすぐには思えない点です。わたしの場合、「とりあえず…ちょっといいや…」となってしまいました。これだけ心動くと異常にハマり、その作家の本は何を読んで何を読んでないんだか書名が定かでないほど無作為に読み漁ったり有名どころは読んでみたりするのですが、今回はそうはなりませんでした。いつ同著者の本を開くことになるのかは分かりませんが、諸々に余裕がある時が良いなぁと思います。
書いていて、徹底的主観オンリーになってきましたが晩夏の気まぐれ読書感想文だと思っていただければ幸いです。そしてわたしはこの一冊で沼田まほかるさんのファンになったということだけは書いておきます。一冊しか読んでないけど。
この夏はバタバタしながらも移動時間なんかも利用して何冊か本を読みました。雑誌なんかも新しいの読んでみたりして。わたしの読書感想文もアレだと思うのでここらで終了しますが読んだ本(雑誌除く)だけ貼っておきます。
読んだときは白蓮れんれんについてのブログ記事を書くとばかり思っていたのに。猫鳴りに替わってしまいました。
今日は涼しくて涼しくてとにかく上機嫌なわたしです。涼しい水曜日って素敵ですね。